初心は忘れるもの(平成14年4月19日)

 会社で古文書が発見され、恐るべき文章が私の目に触れた。産経新聞と私で書いているように、私は15年前に入社し、2ヶ月間の販売店研修に行ったのだが、その感想文を販売報に載せられた。私が提出した文が大幅に改竄され、ずいぶんときれいな文章に直されているのだが、それを改めて読んで、背筋が凍る想いがした。

<新入社員販売店研修レポート・完全配達が販売の基本  ○○○○ (都内水元店で)>注:○○○○は本名

 販売店に(研修で)入り、一番大事だなと感じたことはやはり、読者と最前線で接しているということだった。
 その中でもっとも気をつけなければいけないのは不着と遅配。これが増紙の"敵"であることはいうまでもなく、配達にはかなりの集中力が必要である。その意味では時間指定である朝刊配達は販売店の命であると思う。
 実際、不着のために紙を、"落とした"区域も見かけた。完全配達こそお客さんとの接点としてもっとも心掛けなければならないものだと思う。
 また、読者とのつながりという点では集金も非常に大切である。愛想よく気軽に声をかけ、世間話などでお客様と顔見知りになり、さらに気に入ってもらえれば店の評判、さらに本社への信頼も高まっていくのではないかと思われた。
 わたしはこの二点に留意して日常業務を行うようにしてきたつもりである。
 いくらサービス品に気を配っても、配達や店の対応次第で、読者は逃げていってしまうと思う。
 セールスに関しては共働きが多く、昼はあまり仕事にならなかった。区域をもっていると集金、シバリ、オコシ、先オコシなどの一般業務を行うことで精一杯で、新刊飛び込みまでできる余裕がなかった。ベテランの専業さんで、区域の見込み読者を知っているくらい地域に精通しているのならともかく、一ヶ月程度の新人では、例え昼間の時間があるとはいえ、学生店員に毛の生えたぐらいの仕事が精いっぱいだった。
 (研修先の)都内・水元店は比較的基本業務のしっかりした店と思うが、オコシに行っても他紙が入っていたり(この場合はわたしがち帳簿をよくみていなかったせい)、「何月から購読するからといっておいたのに全々こないからよその新聞をとっちゃったわよ」という具合で、このような店の場合にはやはり交替読者をいかに固定化していくかが大事だと思った。

 今読んでみると、顔から火が出そうな恥ずかしい内容だが、入社3ヶ月で、新聞販売の右も左も分からなかったガキが素直に思ったことを書いたのだろう。私の担当員生活の原点は、この販売店研修にあった。最近の小僧は1ヶ月弱しか販売店研修をしないようだが、せめて、2ルーティン居なければ、店の仕事の流れは分からないと思う。ましてや、販売店に住み込んで、つぶさに内容を見たことのない担当はもう、なにをかいわんやだ。店の気持ちが分かりすぎたら担当員行政は出来ないとも言われるが、店のつらさ、大変さを身をもって体験していてこそ、愛情を持ってきついことも言える。この文章を読み返して改めてそう思った。あれから15年、お世話になった研修店の所長は数年前に亡くなった。水元に行けば、今でも、ああ、ここをこうやって配達していたなとか具体的な光景は思い出すが、それにしても、初心は忘れるものである。

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