クレーム不感症(平成16年7月11日)

 私が入社してしばらくは、うちの会社の交換台も24時間営業していた。まだフリーダイヤルなんて普及していない時代だから、販売の苦情も代表電話にかかってきて、交換嬢がお客さんの住所を聞いて、販売局の各現場部に回してくる。その地区の担当がいなければデスクが聞いて処理するなり、たまたまそこにいた担当が処理するなりしていて、おおらかな時代だった。しかし、それは昼間の話で、夜も9時頃にかかってくる苦情はたいてい酔っ払いであり、しつこいのが多くて、へたなのに捕まると平気で1時間くらい相手をさせられたものだ。大体昼間店廻りして、夜社へ帰って書類をやるというパターンだったから、うっかり電話を取ってそんな酔っ払いに捕まると貴重な書類作成の時間を取られたあげく、電話を置いたら、「やめたぁ、もうやってらんねえ」と飲みに行ってしまうというのが常だった。うちの場合、固定読者が多かったせいか、不着の苦情なんてのは今の比ではなく、その場にいる人間がたまに電話を取る程度で済んでいた。その状況はフリーダイヤルが導入されたことと、夕刊廃止&スヌーピーTVCM路線で新規読者が激増したため、急激に増え、一変した。局のスローガンに迅速・丁寧なクレーム対応なんて3本柱の一つとして取り上げられ、販売管理部の庶務なんてセクションがお客様センターと名を替えて花形部署になるまでになった。クレーム対応部署が脚光を浴びるなど、実は嘆かわしいことなのだが、現実にクレームが多くこれを解決していかなければ増紙など覚束ないのだから仕方がない。

 2大新聞などではクレームと言えばセールスの苦情なのだろうが、うちの場合はもはやセールスの苦情など無きに等しいくらいだ。最近多いのはクレジット決済導入に伴う、引き落とし関連の苦情だ。まあ、これだけ新しい読者が増えてくれば、しばらくは仕方ないと思うのだが、不着なんてのは人間のやっていることだからゼロにはならない。我々に出来る事と言えばいかにゼロに近づけていくかの不断の努力だけだ。新聞っていうのは毎日配っているからこそ配れるのであって、ビジネスアイのように日曜休刊くらいならまだしも、週3日だの、普段配っていない所に週1回だけ配達なんてそんな新聞受けてくるなと言いたいものだ。話は横道にそれたが、ここ2年くらいの間に取り始めた読者だと、直接社に申し込んでいるからお店の電話を知らない、もしくは、自分は本社と契約しているんだから店は関係ないと言わんばかりの人が多くなった。

 まあ、それにしてもクレーマーの多いこと。私はヒラだが責任者なので、こりゃだめだという電話ばかり回ってくるが、まあ、示し合わせたかのようにパターンが一緒だ。もともとこっちサイドに非があるのだから反論出来ないことを足許見るかのようにガツンガツン言ってくる。鬼の首を取ったようとはこのことかと思う。曰く、「あんたじゃ話にならない、責任者を出せ」、「どうやって責任取るんだ」、「金払わねえぞ」、「会社の正式の文書で謝罪せよ」、「上の人間に言うぞ」、「民主主義を標榜する新聞社がそんなことでいいのか」などなどである。そしてまずフリーダイヤルにしかかけない。うちのフリーダイヤルは他の電話に回せないのだが、他部署でないと答えられないようなことでも、ここで答えろと言って、折り返し電話すら拒否する。こちらが名乗っているのに自分の匿名性を担保にしようとする人間はまともに相手にしないことにしている。まあ、私の場合、特に悪質なクレーマーというのは自分の中で出来上がっていて、折り返しにさせず、フリーダイヤルに固執し、関西弁でまくし立て、やたら責任を追及してくるのが最悪のクレーマーで、これはひたすら嵐が過ぎ去るのを待つしかない。最初の2、3ヶ月は結構いきり立って反論したりもしたものだが、最近はクレーム不感症になって、なんでもハイハイ、申し訳ありませんと連呼するいい子になってしまった。そうでないと、あんな連中全力で相手してたら、毎日毎日ストレスで頭おかしくなっちゃうもん。

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