本社は無謬である(平成14年12月31日)

 このコラムをスタートした当初は、自分の友人など新聞と縁のない人が中心に見ていたので、読者に新聞業界で自分が何をしているかを知ってもらうつもりで書いていた。昨年の今頃は産経の夕刊廃止に対する包囲網を見て頭に血が上り、年末から春先まで、過激な三紙批判を展開していた。今年の元旦は仙台から車を飛ばして本社に帰り、朝5時に出社して不測の事態に備えたものだった。休刊日即売発行問題が沸騰していた今年前半は、2ちゃんねるにアドレスを貼り付けられたおかげで本社秘書室やら、公取委やら、全国の新聞販売業界関係者やら大変数多くの人達に見て頂いたようである。その後内容が腐っていったので、一日のアクセス数も最盛期の1/3程度まで減り、もはや業界注目のHPとも言えなくなって来た。まことに喜ばしいことである。これでまた好き勝手が書ける。来年は私の担当員としての信念を中心に書いていこうと思う。

 さて、今年前半は産経を語らずして新聞販売業界を語れないほど、産経の話題で持ちきりだったが、最後に来て、一気に主役交代し、世界最大の発行部数を誇る新聞社が話題の中心になってきた。といっても、話題の内容は社の政策全体ではなく、個別の店の強制改廃やライバル紙の有力セールスチームの移籍といった事象が話題になっている。強制改廃あるいは普通の改廃なら既にこの2年近くで随分と数多くの販売店が血祭りに上がっており、今回の大和事件が初めてではない。裁判が起きていると言っても既に去年から二桁の訴訟を抱えているらしいし今更珍しいことではない。珍しいのは販売店主が地位保全の仮処分申請をしたことに対し、発行本社側から出した陳述書が販売店主側から関東一円の同系統販売店に送られ、それがそこいら中に出回っていることである。陳述書によると、改廃の理由は過剰予備紙であり、上紙原価が安いことを利用してそれを遙かに上回る折込料を詐取していたというものだ。陳述書の内容自体は読んでいて至極もっともな事が書いてあり、業界の内情など知らない人が読めば、当然店側が一方的に悪いと思うだろう。しかし、よく読むといくつか不審な点がある。本社は既に一年以上前にその店の過剰予備紙を問題にしていたということだが、過剰予備紙が悪だといい、それに気付いていたなら、当然速やかにそれを是正する、つまり一度は切るはずだ。切ってそこから再スタートとなるはずなのに、5店のうち2店を先に引き継いでいって、最後に3店を一気に紙止め強制改廃へと持っていったのが実際のところである。現に昨年産経が余っているといって予備紙ゼロにさせたあげくに読者の切替を奨励していたのだから、自分の紙だって余っているのは悪だというなら、気付いた瞬間に社側から切るべきである。折込料の詐取と言うなら、知っていて1年以上も放置した本社も同罪ということになる。今回の大和事件以外にも同じ神奈川県内で数店が改廃になっており、その度に紙が何千と切れている。このことを見れば、今後も過剰予備紙を発見すれば直ちに改廃し、残紙を切るのだろうと期待出来る。というか、満天の下にその方針を晒してしまった以上、そうせざるを得ないだろう。

 押し寄せる無読化の波に有効に対処していかなければ紙は余る一方である。そう、本社が店に期待するのは常に増紙であり、無読が増えようが、対抗店が強かろうが、社から金が出なかろうが、団が少なかろうが、折込が少なかろうが、店着が遅かろうが、紙面が今の世論に合わず批判に曝されていようが、紙を減らすことは許されない。紙を取れば取るほど上紙原価が安くなる制度をひいているのは本社である。自系統にたくさん折込が入るように系列の折込会社を作ったのも本社である。取り紙で他紙を圧倒し、折込を獲得してその資金でカードを買って増紙するというシステムを構築したのも本社ではなかったのだろうか。一方で積み紙を発見すれば即改廃という方針を10年以上も貫いて来た社もある(ただし首都圏で)が、突如として過剰予備紙は折込詐欺と言い始めた社もある。残紙を買い取ってでも発行部数を維持する社もあれば、東京紙は切らせても自紙は切らせない社もある。今や減紙の要因の最大のものは無読の増加である。無読がなぜ増えるかと言えば、それは新聞が必要のないものになってきているからであり、それを食い止めるため、社も店も日夜努力していかなければならない。

 本社の販売政策は朝令暮改である、販売店はそれについてこなければならない。店も増紙あるいは部数維持のために日夜努力しているだろう。努力していない店があるとすれば、私だって強制改廃に訴えるに違いない。結果だけを見て、プロセスを見ない販売行政を行っていればいつか販売網は崩壊してしまうのではないか。ましてや感情改廃などがまかり通っていたら、店主の心は本社からも商品からも離れていくだろう。昨今の話題の改廃事件の中に感情改廃の噂がつきまとっているのも事実だ。担当員や販売幹部がその店主を気に入らないからと言っていちいち改廃していたら本社のためにもならないだろう。私も自分の意思ではもちろん、上の命令であっても感情改廃だけは絶対にしたくない。

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