x旅人新聞裏話 新聞販売店の持つ可能性(平成14年5月10日)

 産経新聞がNEWSVUEという電子新聞システムを発表したとき、ずいぶんと文句を言われたものである。しかし、新聞社がやらなくても、もし、ヤフーなどのネット企業が共同通信など通信社と組めば、実は明日にでも参入して来れるんじゃないのか。そうでなくても、すでに検索サイトやプロバイダーサイトではニュースを流している。現実問題として、新聞販売業界はインターネットの脅威にさらされている。いつの日か紙媒体が電子媒体に凌駕される日がくるかもしれない。今のようなシステムで新聞を拡材競争だけで売っていたらそう長くはないだろう。そうでなくても、若者の新聞離れ、活字離れは加速度的に進んでいる。次は合売化という流れになるのだろうが、電子媒体はケーブルを通して区域侵入してくるので、防ぎようがない。紙媒体を魅力的なものにし、販売店が新聞を土台に次のステージに昇華していかなければ生き残れないだろう。

 地方担当をしていると、合売店の所長さんと、よく”これから生き残って行くには”という話をする。私は新聞販売店、特に合売店には、努力とチャンスさえ逃さない目があれば未来があるという。どんなにインターネットが発達したって、情報だけなら運べても、電波では物は運べない。そして、新聞販売店にはデリバリー専門店としての芽がある。基地としての店舗、配達ツールとしてのバイクや車、そして、どこに何がある、誰がどこに住んでいる、そこに行くにはどうすればいいという、デリバリーのノウハウを持っている。新規参入でこれらを全部揃えようとすれば、結構な初期投資と蓄積とが必要になるが、既に新聞販売店は最初からそれを持っている。それを生かすも殺すも経営者の才覚次第だ。しかし、所詮は新聞屋なのだから、いきなり大きく出たら怪我をするだろう。新聞販売の周辺から手がけるのが肝心だ。チャンスは目の前をフワフワ飛んでいる。それを見分け、手を伸ばして掴むかどうかが生き残りの鍵になるだろう。

 このような話をするとき、私が必ず引き合いに出す販売店がある。長野県は丸子町の佐藤新聞店(0268-42-2223)だ。長野担当時代にずいぶんお世話になったお店だが、同店の久保山社長は、新聞販売店の生き残りのヒントになるような事業を少しずつ手がけていっている。上田市の南側に広がる丸子町、長門町、武石村、和田村という広大な区域かつ山間部のヤツデの葉のような配達経路を抱える販売店だ。我らが美ヶ原高原美術館も、このお店の区域の一番端にある。久保山社長のモットーは地域の役に立つ販売店、佐藤(新聞店)とつきあえばきっと得すると読者に思ってもらえる販売店になることだ。もうずいぶんと前から旅行代理店業務を手がけ、JRとの長い長い交渉の末、発券端末機の設置権を得た。このことによって、区域内の町村民は上田駅まで出なくても、列車の指定券が手にはいるようになった。また、まだヤマト運輸の配送網が整わない時代に、代理店として、集配だけでなく配送も請負い、ヤマトとのパイプを築いた。現在配送はヤマトが直接やっているが、ヤマトメール便の二次販売権を得て、独自の顧客開発と配送を行っている。民営化をにらんで、将来は郵便を取りたいと言う話を聞いたこともある。そして、今取り組んでいるのが、介護ビジネス、というより、介護を通じた読者サービスと読者維持だ。これはなかなか難しい事業だが、最初は買い物代行サービスを打ち出すことでスタートした。1回500円ということで採算をとるのは難しいようだが、新聞販売店に出来ることからスタートするという発想は素晴らしいと思う。社員さんに介護士の資格を取らせ、先々は本格的介護ビジネスへの参入も視野に入れているようだが、当面、老人世帯の話し相手などから始めているようだ。なんだそんなことかと思う人もいるだろうが、老人夫婦世帯が新聞を取っていて、おじいさんが入院してしまったとすると、おばあちゃんはまず新聞を止めてしまう。こういう経験はどんな販売店にも思い当たるだろう。そして、佐藤さんには世話になっているから新聞を止めるのはちょっとなと思わせる抑止力には十分になるということだ。久保山社長は言う、「誰でも考えることでも一歩踏み出すのは勇気がいる。でも、その一歩を踏み出さなければ何も始まらない」と。私は、どこの担当をしていても、この店のやっていることに常に注目していようと思う。一歩を踏み出す勇気を持った販売店だからだ。

 長野県では合売店と言っても、信毎の部数が圧倒的に多いため、信毎の専売店に東京紙が預けているというイメージが強いが、佐藤新聞店はスタートが読売の専売店、さらに先代会長はサンケイのセールスを皮切りに新聞販売業界に飛び込んだと言うことで、バランス感覚に優れており、部数の多寡に関わらず、どの新聞も大事に扱っている。アイデアもこうした中から生まれてくるのかもしれない。私は東北甲信越静岡を担当している部にいるので、いろいろな話が入ってくるが、合売店(気持ちは地元紙の専売店)の中には、部数の少ない新聞を扱いたがらなかったり、新規読者の連絡を露骨に嫌がるお店もある。コンビニが扱っている商品の数を考えれば、新聞の種類は遙かに少ない。全ての新聞の配達が出来ますというスタート地点に立てなければ、佐藤新聞店のように一歩を踏み出すことは出来ないだろう。紙媒体の衰退を演出するのは意外とこういう販売店なのかもしれない。このような販売店の将来は非常に危ういと思うがどうだろうか。

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