お人好しでは生きていかれない(平成14年3月3日)

 産経新聞と読売新聞が読売大手町工場での夕刊フジ、競馬エイトの印刷で合意し、さらに瀬戸内海を挟んで相互印刷を決めたとき、産経社内には今後は、読売とうまくやっていくのが社の方針だという雰囲気になりかけた。その一方で、読売社内では、いずれ産経は読売に吸収合併されるんだというのが、常識になっていたという。朝日新聞と論調の上で厳しく対立し、何事にも朝日との対比を際だたせていたので、編集的に言えばそう言う流れになっても不思議はないだろう。しかし、産経読売両社間で協調ムードが高まった時に、その両社内での受け止め方に羊とオオカミほどの温度差があったとすれば、今回の問題で、ナベツネ社長が怒り狂ってうちの社長を新聞協会副会長から引きずり降ろしたことも、至って自然な行動だ。何せ、自分の掌の上だと思っていたところが、自分の会社に不都合なことを始めたのだから。横浜ベイスターズ問題からフジサンケイグループと読売グループの間にはただならぬ雰囲気が漂っていたが、そこに産経夕刊廃止問題である、まあ、タイミング最悪と言えよう。しかも、相手の販売の最高責任者が、栃木担当時代に下野新聞と一悶着起こしている有名な人物と来ている。最高最悪のタイミングだった。

 どこの会社でも、組織でも、トップが替われば方針がガラリと変わるのは世の常だ。そんなことは当然呑み込んで生きていかなければやっていけないのだが、ある程度は相手を信用してかからなければ、必要な戦略はとれない。しかし、人間は経験や前例を糧として生きていく事が出来る。過去の歴史の中で何が起こって来たのか知らなければ、大やけどをする。多分今までは、やけどで済んできたのだろう。今回もやけどで済むことを祈っているが、やはり、信用出来ないものを100%信用してはいけない。一人一人はいい人で信用出来ても、組織としてまとまると全く信用出来ないなんてことが現実にはいくらでもあるということを、私の僅かな担当員生活の中で、いろいろ聞かされてはいたが、今回ほど目の当たりに見せられたことはない。そして、トップの方針次第で、どんなにいい人でも下はついて行かざるを得ない。誰でも我が身が可愛いのだ。

 昔、全社が社告を打って新聞販売正常化を宣言したことがあった。そして、ほとんどの社が忠実に守ろうとしていた時に、今こそ千載一遇のチャンスとばかりに全店に拡材を送り、他社が出遅れている間に一気にシェアを伸ばしたという事件があった。入社以来私は諸先輩からその事件を盛んに聞かされて来た。実に素晴らしい戦略である。普通の日本人には真似できない販売政策だ。それがいいとは思わないが、勝つためには何でもやる、そして、勝てば官軍というのが、この業界の常識なのだ。そして、お人好しの社はその度に弱っていった。これは産経だけの話ではない。今回、3社があたかも協調して産経潰しに走っているように見えるが、産経が万が一潰れた時に誰が一番得するのかよく考えた方がいい。これは、地方紙も同様だ。全ての流れを一つの戦略の上で運用している社と、その社の動きにつられて右往左往する社ではどっちが勝負の鍵を握るか目に見えている。もはや、右の頬を殴られたから全力で殴り返す時代じゃない。特に毎日新聞と地方紙にはよくよく考えて動いてもらいたいものだ。
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