台風上陸のおそれ?!(平成16年10月10日)

 台風22号は史上最大級の名にふさわしい傍若無人ぶりで10月9日午後から夜にかけて、関東地方を席巻していった。当初の予想進路の最も東寄りを進み、伊豆半島、三浦半島から千葉茨城を抜けて太平洋へと抜けて行った訳だが、予想進路のセンターを進めば関東から東北まで串刺しになっていたことは疑う余地がない。昨今の進化した気象観測&予測技術なら、予想進路の外側へ外れることなど余程の別条件が発生しない限り考えられない。つまり、今回の台風は「上陸のおそれ」ではなく、「上陸確実」だったのだ。しかも、上陸前の勢力が920hPaという空前の低気圧だ。

 しかしながら、テレビニュース、新聞の1面見出しとも、あくまで、「上陸のおそれ」だった。おそれもへちまもあるか。この史上最大級の台風は絶対上陸するし、上陸しなくたって、かすめるだけでどれだけ被害が出るか分からない。台風の影響のない北海道辺りでのんびりゴルフでもやってれば危機感もないだろうが、まさしく台風の進路に串刺しされようとしている地域で仕事していた人間にしてみれば、もっともっと危機意識を持って台風への備えをしなければならなかったはずである。昔は台風が来るといえば窓に板打ち付けて、家の中でじっと過ごすというのが、台風に対する備えの定番だったが、今はそんな話は聞かない。遠くから飛んでくる看板で窓が割れることだって今も昔も変わっていないのにである。

 台風という天災に対して何か鈍感になっていないだろうか。その一つの現れが、「上陸のおそれ」という言葉だ。上陸するに決まってるのに「上陸確実」とは言わない。これはまさしく井沢元彦氏言うところの言霊信仰の現れだろう。台風が上陸するなどという縁起の悪いことは言わないのだ。「おそれ」というのは普通、まあ悪いことが起こらない方が確率が高いがもしかしたら起こるかもという場合に使うはずの日本語である。今回の台風で言えば数日前から直前までの予測円ではもしかしたら、かすめるだけかもというくらいのもので、「東海関東を直撃へ」というのが、正しい状況説明であり、読者・視聴者への警告になったはずだ。しかし、「上陸のおそれ」という言葉は、うまくいけばそれるんじゃないかという期待を見聞きするものに与える。今回の台風は史上最強の台風で関東を直撃するから十二分の警戒が必要ですよという明確なメッセージを見出しの上で訴えるべきである。確かに本文ではこの10年で関東に接近(接近もどうかと思うが)する台風の中では最大級という表現をしているが、見出しの与えるインパクトに比べれば印象に残らない。それほど見出しは大事なはずである。

 おおかみ少年に陥るのを避けたいという心理もあるだろうが、危機に際しては、声高に危険を警告しなければ多くの人が危険にさらされる。私辺りが会社ででかい声で叫ぶのもその意味でなのだが、あいつはうるさいなで終わってしまう。台風も年に9個も上陸するようではまた台風かで終わってしまいがちだ。しかし、台風が地震や火山噴火と同じく恐ろしい天災であることに変わりはない。言霊にとらわれている場合ではないのだ。上陸確実なら上陸確実とアナウンスして欲しいものだ。

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