世の中には人の数だけ正義がある(平成12年12月30日)

 20世紀は戦争の世紀だという人がいる。まあ、2度の世界大戦を経験した世紀だからそう言いたくなるのも無理はない。しかし、戦争は20世紀だけに起こった訳でもなければ、これからも起こらない保証はない。19世紀までのヨーロッパは戦争の大陸とさえ言える。その集大成が2度の世界大戦だ。

 では、戦争は何故起こるのだろうか。帝国主義時代以前の戦争は領土的野心から起きたと言うだろう。では十字軍はどうか。原因は他にもある。現代の戦争の原因としてクローズアップされてきた宗教、民族的対立だ。そしてその全ての要は"正義"である。領土的野心も宗教もイデオロギーも民族の存亡も、全ては自らが正しいとするところから戦争を引き起こす。戦争の原因はまさしく"正義"だと言える。

 ゲルマン民族の正義、フン族の正義、ローマの正義スペインの正義、イギリスの正義キリスト教の正義、イスラム教の正義、日本の正義、ロシアの正義、ウィルヘルム2世の正義、ヒトラーの正義、スターリンの正義、共産主義の正義、アメリカの正義、ホー・チ・ミンの正義、平清盛の正義、源頼朝の正義、後醍醐天皇の正義、足利尊氏の正義、織田信長の正義、徳川の正義、薩長の正義。みんな自分にとっては正義であり、相手は悪である。悪は滅ぼさねば正義が滅びる。

 最初から正義と認定できるものなど無く、勝った、あるいは生き残ったものが正義になるのである。世の中には人の数だけ正義があり、勝ち残ったものが正義を名乗り、負けたものはこの世から消え去るか、かつて悪だったものとして、いつまでも記憶に留められるのである。私の好きな言葉でこういうのがある。「人が死ぬやその善行は墓場に葬り去られ、悪行は千載の後まで残る」

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