みなさま初めまして。この「ソ連介入後のアフガニスタン内戦」を書いた作者(えいらんず・a-rans)です。今回の大惨事に関心を持たれた多くの方が、私の論文を読んでくれているみたいです。読んで頂いたきっかけがあの惨劇ですから、私としても手放しには喜べませんが、それでも正直嬉しいです。多くの方から「読みやすかった」「理解できた」などのお褒めの言葉を頂いております。メール・掲示板それぞれに投稿していただいた方、ありがとうございます。個別にお返事を書きたいところなのですが、私も学業を捨てた身、時間がとれません。「返事がない!」と怒らないでください。


 さて、マスード司令官、ホントに死亡しました。北部同盟のスポークスマンが正式に発表しました。ついに、あのマスードが死んだ。「パンジシールの獅子」が暗殺で逝くなんて。。。同時代人として、「歴史」というものを恨み、そして怖れました。

 「マスード暗殺」の知らせは9/11の朝刊で知りました。まだこの時点では未確認情報でしたが、あまりに突然で、なにも言葉が出ませんでした。そしてそのショックから十数時間後、「世界貿易センタービルとペンタゴンが炎上」という報道が。マスード暗殺と米本土攻撃、ただの偶然とは思えません。どうしてもあの人物が頭をよぎりました。

 アメリカに対してあんな攻撃、つまりは「民間機をハイジャックして貿易センタービルとペンタゴンに突っ込む」という何とも映画的であり、小説的でもある、非現実的な、そしてとても衝撃的で、前例を見ない、ある意味で非常に「幼稚的」であり、その攻撃の壮大さに首謀者自身が惚れ込むような攻撃、これをしたがる人物とは? 以前にこれと似たような攻撃をした人物とは? こんなことができるだけの資金力と人的ネットワークを持つ人物とは? 搭乗客の命まで奪いながらビルに突っ込むという暴挙を実行犯にさせてしまうその原動力とは? そして、なぜこの時期にマスードを葬る必要があるのか???

 アメリカ政府や日本のマスコミなどはこの事件のあと、すぐに「首謀者はオサマ・ビン・ラディンである」と言っています。また中東地域専門家や有識者たちも明言は避けながらも、同じようなことを言っています。早急な断定はすべきではありませんが、私の見解も、やはり同じです。ただ、彼が首謀者かどうかは未だよくわかりません。間違いなく言えるのは、「首謀者じゃなくても、相当の関わりがある」ということでしょう。そしてタリバンも何かしら絡んでいるはずです。

 そこで私は考えました。これはあくまでラディンが絡んでいる場合の説なのですが、
1,アメリカ本土に攻撃をする
2,アメリカは必ず報復する、しかも今回は98年のときの報復よりも徹底するはず
3,そうなるとタリバンはアメリカ相手に戦うことになる
4,もしそうなった場合、マスードが前線で指揮を執る北部連合と米軍の挟み撃ちになる可能性が高い
5,だからあらかじめ、マスード暗殺を実行に移した

 タリバンが本土攻撃を計画したとは思えません。彼らにはそんな力も余裕もない。ですが、事前に「ビン・ラディンが本土攻撃をする」という情報はタリバンには入っていたはず。となると、アメリカの報復対象としてビン・ラディンをかくまうタリバンも目標になってしまう。そうなるのはわかっているのだから、なんとしてもマスードを前線に出させないようにする必要がある。マスードは海外メディアに頻繁に登場し、自分の反タリバン闘争をアピールしている人なので、マスード一人をテレビインタビューと称して誘きだすのは以外と簡単だったかもしれない。これなら、タリバンでもできるのではないだろうか???

 あくまで、上記は私の仮説にすぎません。前提条件はオサマ・ビン・ラディンがアメリカ本土攻撃の首謀者(もしくは何らかの関与)だった場合の話しです。真相はどうなのか?、そしてこれからどうなるのか?、しばらくは目が離せません。

 ところで報道番組を見ていて気になったのですが、「イスラム原理主義者によるテロ」「イスラム過激派の仕業」という表現が多いです。「イスラム〜」「イスラム原理主義〜」が今回の事件を起こした、「イスラム」って恐い宗教だ、「イスラム」は悪である、、、といった認識が生まれる可能性があります。映画『マーシャル・ロー』で警鐘を鳴らしていたことが起こりそうです。まだ見たことのない方は、ぜひご覧ください。

 イスラムは恐い宗教ではありません。イスラム原理主義もまた、同じです。もともとは平和を愛し、女性の解放を目指した宗教です。問題なのは一部の集団です。イスラムという大義を使い、自分たちの要求を「テロ」「殺人」を通して主張する連中です。彼らと普通のイスラム・イスラム原理主義とは違うものです。それを混同すれば、もっとも恐ろしい事態を招くことになるでしょう。。。(私の論文でも「イスラムテロ」という言葉を使っていました。あれはあまり良い表現方法ではなかったです。反省してます。)

 もちろん、彼らが「テロ」「殺人」をするまでに至った経緯を把握しないといけません。彼らだって、もともとは普通の善良なムスリム(イスラム教徒)だったでしょう。では何がきっかけだったのか? 私はこの論文で「アフガニスタン戦争」がきっかけだと書きました。そしてそのあとの「湾岸戦争」で反米思考になったのです。

 そうなると、今回の大惨事の遠縁として、欧米の身勝手な介入とその後の無責任な態度も忘れてはいけないでしょう。欧米、とくにアメリカは冷戦中、「我こそは正義だ」を主張しすぎました。そしてベトナムやアフガニスタン、中東、アフリカに軍隊を派遣しました。たしかに、アメリカの「正義」は間違いだったとは思いません。ソ連の共産主義に比べればまだマシです。でも、その正義の影に踏みにじられ、生活の基盤を失った人たちのことを欧米諸国は忘れすぎです。「アラブ・アフガン」「オサマ・ビン・ラディン」が反米的な態度を取るようになってしまった背景を、アメリカはどう説明するつもりなのでしょうか? 彼らは同胞達が貧困で困っているのを目の当たりにしていた。そして自国政府のトップたちは私服を肥やしていた。この状況を打破できるのはソ連を倒した俺達しかいない。俺達ならばできる! 私は彼らがそう思ってしまった感情を否定することはできません。

だからといって私は、テレビで過激派が「アメリカの自業自得だ」と言ったことに同調はしません。彼らのとった選択は、間違いです。絶対に、間違いです。



 さて、アメリカはまず間違いなく、報復攻撃をするでしょう。例えそれが、その次の報復テロを招くことを知っていても、やるでしょう。今回ばかりは、徹底的に、98年のような生温いやり方ではなく。そしてオサマ・ビン・ラディンを殺し、タリバンを壊滅するまで追い込むでしょう。そしてそのあと、どうなるのか。。。

 アメリカは、世界各地に続々と発生する「オサマ・ビン・ラディンの後継者」たちに頭を悩ませるでしょう。そこまでわかっていながら、アメリカは今回報復します。これ、「アメリカはバカ」ではないのです。決してアメリカは「バカ」ではない、でもやるんです。どうなるかわかっていながら、それでもやるんです。皮肉が好きな人ならば、「ブッシュはここで報復攻撃をしなければ、国民の支持を失い政権を追われるだろう。だから報復するんだ。」というでしょう。しかし、そんなせこいレベルではありません。政権の存続とか、国民の支持獲得とか、そういうくだらない話しではないのです。

 国家は感情で動いてはならないのです。でも、感情で動くことも時としてあるのです。アメリカの「赤裸々な軍事行動」は極めて「国家的」だと思います。


 掲示板・メール等で感想を書いてくださった方のいくつかに共通しているのは、「小説を読んでいるみたい」「不謹慎ながらも興奮した」という内容でした。実は私も同じです。論文の最初に『本音を言えば、そうやってこの内戦を見ると「戦国国盗り物語」として見ることができるからだ。その方が「面白い」のである(人の生死を「面白い」と表記するのは真に不謹慎ではあるが...)』と書きました。この国の歴史を調べれば調べるほど、そういう思いが強くなります。いずれは小説になるんじゃないか?、と思っていました。

 今年はアフガニスタンの歴史にとって「劇的な一年だった」と記されるでしょう。バーミヤンの大仏破壊から始まって、マスードの衝撃的な暗殺事件、そして今後起こるであろう、アメリカとの戦争、、、ついにアフガンは大英帝国、ロシア帝国、そしてアメリカまでも相手にすることになったんですね。彼らは、負けないでしょう。例え相手がアメリカであっても、、、

歴史はいつまで、この土地を弄ぶつもりなのでしょうか? もう、充分です。



 以上が今回の「暴挙」に対しての私の思うところです。私の恩師やゼミの友人たちがこれを読んだらナント思うだろうか?、とヒヤヒヤしながら書きました。とくにアメリカ報復に関する「国家」についての考え方、間違っているんだろうな、と思います。

 それと、このサイトにリンクしていただける方へ。もちろん、リンクは構いません。ありがとうございます。リンクフリーでやっておりますが、できれば「リンクしたよ」と知らせてください。あと、いないとは思いますが、雑誌・メディア等に使われる場合、その場合も「使うよ」と知らせてくださいね(これはいないだろうな)。

 あと、もっとアフガニスタンについて知りたい!、と思った方へ。

『TALIBAN タリバン』講談社 2000年10月20日
アハマド・ラシッド(坂井定雄・伊藤力司 訳)2800円

がオススメです。私が書いた文章はこの本を大いに活用しております。パクっている!、と思われても仕方ないくらい活用しました。タリバン=悪、マスード=善、となっていた私の頭を柔軟にしてくれた本です。入門用としては最適です。ぜひ読んでみてください。

 このアフガンのページは一年に一回はちゃんと更新していこうと思っております。そしていずれはアフガニスタンに行って、現地から更新することが出来たら幸せだな、と思ってます。

 最後に。わたしのこの論文を書くにあたって指導してくださった教授。ならびにスーダン研究家の友人、ヨネ。そして2年間という短い時間だったが、国際政治をともに学んだゼミ生諸君、感謝しております。書いて、良かったです。

そして読んでくださったみなさま、ありがとうございました。月並みですが、一日も早くアフガニスタンに平和が訪れることを願いましょう。

2001/9/16
a-rans

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